【旧】foodish:”雑”食記

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ホーセズ・ネックの思い出

Posted ish / 2004.10.06 Wednesday / 00:54

もうかなり前、出張で高松に行った時のこと。
仕事を終え、仲間と二人で夜の高松の街を歩き回った。記憶にあるのは高松のワシントンホテル近辺をうろついていたことだけで、今調べてみるとそのあたりは瓦町という所らしい。
知らない街を歩くのは楽しい。知らない街で食事をするお店や飲みに行く所を探すのは、スリリングだ。当たればすごく嬉しいし、はずせばとんでもないことになる場合もあるが。

その夜、相棒と瓦町近辺をくまなく歩き回った結果、とあるお店で食事をした。おいしかったという記憶はあるのだが、それ以外に印象に残っていることもない。
食後、さあ、次はバーに行こうということになった。その相棒、実は社外の人で、この時会ったのが2回目という程度。彼の事をほとんど知らないいまま、一緒に仕事をし食事をしてきたが、その段階でなんとなくこんな奴なのかなというイメージはあった。食事前に街を歩き回り、お互いになんとなく目星をつけているバーがある。じゃあ、それはどこなんだと二人で言いあいっこしたら、たまたま同じ店だった。

その店の名前も場所も憶えていない。お店に入ってみると一人のバーテンさんがいてカウンターとボックス席が二つあったこと、カウンターの中からボックス席に行く場合、いったん店の外に出ないといけないという困った作りになっていたことだけはよく憶えている。つまりバーテンさんはボックス席に飲み物を出す場合、いったん外に出ないといけないわけで、ほんとに変なレイアウトだった。
前にも書いたが、僕はバーで最初の一杯はウオッカトニックと決めている。ベーシックなカクテルなので実力が試されるという話を聞いたことがあるけれど、そんな事よりも、同じものを頼むことに決めておけば迷う必要もないし、他のお店に比べて傾向がどうなのか比較しやすいという単純な理由のほうが強い。
で、この時のウオッカトニックはけっこう好みだったので、お、このバーテンさんと合うかもと思った。その後2杯ほど別のものを頼んだが、どれもこれもおいしかった。
そして、続いて頼んだのが、ホーセズ・ネック(Horse's Neck)だった。
hosesneck.gifコリンズ・グラスの縁に、らせんむきにしたレモンの果皮をかけ、内側にたらしたスタイル。好みのスピリッツをジンジャー・エールで割ってつくるが、ブランデーをベースにするなら、“ブランデー・ホーセズ・ネック”というように、使用するスピリッツの名を頭に冠して呼ぶ。
(サントリー・カクテル用語辞典より)

なぜかこの頃、ホーセズ・ネックをよく飲んでいた。ここまでの3杯で、僕がけっこう満足していることをこのバーテンさんは察しているだろう。さて、どんなものが出てくるか…

出されたものを見て驚いた。この酒の大事な要素であるレモンの皮が緑色なのだ。鼻に近づけてみると…レモンではなくライムだった。
おー、なんと大胆な事をと思ったものの一口飲んでみると、うまい。レモンより柔らかめでやさしいライムの風味がやや辛めのブランデーにすごく合っていて、すごく僕好みだった。
何杯目かから、このバーテンさんは大した人だと思い始めていたが、この一杯で完全にノックアウトされた僕は、ここで初めてバーテンさんに話し掛けてみた。
どうしてレモンではなく、ライムの皮を使ったのか。いやいや、気に入らないのではなくむしろすごく気に入ったので理由を教えて欲しいと。

バーテンさんはもじもじとしながらこう答えた。
実は誠にお恥ずかしい話なのですが、ホーセズ・ネックに使えるだけのレモンがもう残っていなかったのです。バーとして、レモンを切らすという事はあってはならないのですが、かといってレモンがないからそのお酒はできませんとは言えない。そこで、今までのお客さん(僕のこと)の好みから考えて、ライムでも満足してもらえるように作ってみました、と。

確かにバーにとってレモンは重要なパーツだろうし、それを切らすのはミスといわれてもしかたがない。ところがこのバーテンさんは、自分のプライドをかけ(無謀ともいえなくはないが)ライムを使って僕を満足させようとし、成功した。たまたま話し掛けることがなければ、僕は何の疑問もなく、このライムはバーテンさんの遊び心だとしか思わなかっただろう。

まんまとはまってしまった。
本当にいいバーに巡り合えたなと思った。
高松が一気に身近な街に思えた。


…その半年後、同じ相棒と再び高松に来ることになり、今度は迷うことなくそのバーに行った。でもそのバーテンさんはもういなかった。替わりの人に聞くと、彼はコンテストでも何度か賞を取っており、けっこうな腕の持ち主だが、少し前に店をやめ、今は岡山あたりにいるらしいとのことだった。

もうそのバーテンさんに会うことは二度とないだろうけど、あの日のホーセズ・ネックは一生忘れることがないと思う。あれ以降、しばらくして僕はホーセズ・ネックを注文するのをやめてしまった。多分あれを越えるものにはもう出会えないだろうなあという気持ちと、出会いたくないなあという両方の気持ちが、どこかにあるからだと思う。

(おまけ)そのバーに一緒に行った相棒は、実は元バーテンダーであることが店を出てからわかりました。もっとはよ言えよ!そういや、聞いた事ないような酒ばっかり注文するなあとは思っていたのだが。ちなみに彼の感想もあのバーテンはすごいという評価でした。
ひょっとするとライムの皮を使ったら、別の名前になるのかもしれません。ご存知であればご教授ください。

Comments

えて吉2004/10/06 06:22 PM

旅先での飲み食い、私も大好きです。

特にバーに飛び込んで、いい店だとガッツポーズが
出そうになります。

高松でも一度だけ夜の街をうろついて
バーに入ったことがあります。

私のオーダーの定番は、ジントニと
マルガリータです。

ish2004/10/07 04:50 PM

えて吉さん>
最初の一杯を決めるとき、ジントニかウオッカトニックかどっちにしようか迷いました。
マルガリータもいいですね。僕には似合わないかもしれないけれど、フローズンタイプも好きです。ダイキリもいいなあ。

mikyunn2004/10/08 10:31 PM

このバーテンさん、かっこいい!
いまごろどこかのバーでカクテルを作っておられるんでしょうか。
わたしのあこがれは、ひとりでバーに入り、かっこよくお酒が飲めるオトナの女になること。
マルガリータが似合えばいいなあ。
ほんの一口のアルコールで顔が赤くなるわたしが「マルガリータ」とオーダーした時、バーテンに苦笑されたこともあった。。
いいバーに出会いたいものですね。

ish2004/10/09 08:52 AM

mikyunnさん> 
このバーテンさん、ぜひともどこかでバリバリにやっていて欲しいものです。
昔サントリーのCFで、刑事コロンボのピーター・フォークがバーテンをやっているのがありましたが、そのコマーシャルが大好きでした。
腕が良くて寡黙で気配りが出来てタイミングを心得ている、というのがいいバーテンさんの条件でしょうかねえ。(ワガママな客だこと)

ぺんぺん2004/10/09 09:35 AM

おお!身近な地名ががんがん登場してます!!
瓦町は、高校の近くだったこともあって、高校のとき毎日のように徘徊しておりました・・・。
残念ながら、当時お子様だったので、バーは詳しくないのですが・・。
ワシントンホテルの右隣のビルに入っている、「串よし」っていう串かつ屋さんもオススメですよ〜・

ish2004/10/09 12:32 PM

ぺんぺんさん>
そうかそうか、ぺんぺんさんはあっちの出身だったものね。高松って四国で一番大きな街ですよね。その前には出張で丸亀に1週間くらいいたので、ほんとに大都会に思えました。

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