【旧】foodish:”雑”食記

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東京味巡り3〜「天丼讃」と「土手の伊勢屋」(三ノ輪)

Posted ish / 2008.10.31 Friday / 10:43

注:かなりな長文です。読んでいただけるなら嬉しいですが、そのおつもりで。


手元に、1984年発行の文春文庫「東京たべもの探検」という本があります(季刊誌「くりま」8号「東京人の食」を再編集したもの)。この中に、当時東大助教授(フランス語)でいらした冨永明夫さんが書かれた「天丼讃」という16ページほどの文章が載っているのですが、僕にとっては20数年前に初めて読んで以来今に至るまで、この天丼讃が「食べ物に関するナンバーワン文章」なんです。
出来れば写真と共に全文引用したいところ、そうもいかないのが大変残念なのですが、何が素晴らしいかと言えば、とにかく文章が簡潔明快的確。難しい言葉や言い回しなど全然使ってないのに、全くスキを感じさせずレベルが高い。そしてなにより、江戸っ子である筆者が子供の頃から慣れ親しんできた「天丼」という食べ物に対する愛が、溢れんばかりに文章の中に充ち満ちていること。
いやー、食いしん坊なら、いやそうでなくても、この文章読んだら、今すぐにでも天丼食べに走り出したくなるような、ほんとうに素晴らしい名文です。例えば、文中の「天丼はかくあるべき」という項目をいくつか抜き書きしてみますと、
  • 天丼は上品ならざるべきこと
  • 天丼は東京風なるべきこと
  • 天丼は誠実に作らるべきこと
  • 天丼は誠実に食さるべきこと
などと一見独断的に思えますが、文章を読めば大いに共感すること間違いなし。気っぷが良くてお人好しで、頑固に見えて実はシャイな江戸っ子堅気が伺える名フレーズがいくつも散りばめられているんです。僕はまったくベタベタの関西人ですが、こういう昔ながらの東京の世界は大好きなんですよね。

上記リンク先にも記載されているとおり、冨永さんが天丼六佳撰としてお選びになったうち、半分以上が今はお店を畳まれているそうです。そのうちの一つにでもいつか行かねばと思いつつ、たまにしか上京する機会がないのでなかなか天丼まで手が(口が)回らず数十年経過。そして4年ほど前のこと、その六佳撰には選ばれなかったものの、素晴らしく魅力的な天丼屋・「土手の伊勢屋」があることをこのfoodishがきっかけである方に教えていただきました。

伊勢屋1.jpg

このお店の最寄り駅・三ノ輪は東京の中心部からやや離れていて、近辺に有名な観光地はありません。ここで天丼食べたいなら、ほぼそのためだけに行く覚悟が必要。また超人気店なので、場合によっては長時間待つ覚悟が必要。その手の覚悟をしつつ、やっとその機会が来たと3年前にトライしたところ、見事撃沈した経験が僕にはあります。

今回上京するに当たり、伊勢屋のことは初めから頭にありました。でも行くとしたら週末になるからすごく並びそうだし、前回撃沈したトラウマもあるし、どうしようか迷っていました。
築地で3時間並んだその日、そこから秋葉原に移動してウロウロ捜し物をし、気がつけばすでにお昼を過ぎていました。さて昼飯をどうするか。当然伊勢屋のことは頭にあったけど、土曜だから混んでるだろうし、今から行ってもお昼の営業時間ギリギリ。もう並ぶのはイヤだし目前で「閉店しました」もイヤだし…………
ええい!迷っててもしゃあないわい!並ばされようが目前でシャットアウトされようが、それもネタになってえええやないか!と、結局のところやや自虐気味になって、そわそわと三ノ輪に向かったのでした。
伊勢屋2.jpg

3年前に一度来ているので、迷わずお店に到着。のれんが出ているのを見てまずは一安心。行列はと見れば、ラッキーにもお店の前に1人並んでいるだけではないですか。(注:上の写真はお店を出た後で撮ったものです)
待ち時間5分でお店の中に案内され、僕の後5人ほどでのれんが下げられるというギリギリ&絶妙のタイミング。うまく行く時はこんなもんですね。

伊勢屋3.jpg

通された席はお店の椅子席の一番奥、店内がほぼ見渡せてとても嬉しい。というのも、こちらのお店は天丼だけでなく、土壁や黒光りのする柱など、その歴史ある建物にも魅力があるのです。壁に掛けられた大きな柱時計・海老をモチーフとした木彫りの額・海老の透かしが入った窓ガラスなどなど、許されるならゆっくり写真を撮ってみたいモチーフが満載。調理場から客席へ出る境に吊されているのれんの下っかわ(かき分ける箇所)がすり切れてちびているのも、なんかすごいなあって感じでした。とにかく昔の東京情緒が味わえて、とってもゆったりした気分になれます。

伊勢屋4.jpg

待つことしばしで出てきた天丼の「ロ」(1900円)。こちらではイ・ロ・ハの3段階があり、かなりのボリュームがあることがあらかじめわかっていました。前後のこともあるので真ん中のロにしたところ、けっこうなボリュームながらこの日の僕には適度な選択。丼からはみ出す穴子・ぶっとい海老・プリプリの柱のかき揚げ・獅子唐はゴマ油で揚げられており、関西ではまず見ることのない濃い褐色。つゆは甘味が少なく、きりっと締まりのある味付け、堅めのおいしいご飯に適量絡んで「濃い」天ぷらと対等に渡り合えます。
人によっては重めに感じるだろけど、いやぁ〜うまかったなあ〜〜、この天丼。ほんと、僕としては「天丼は東京風なるべきこと」ってのに大きく頷きたくなる味でした。タネも衣もつゆも、全て主張がきつい。そのどれかが突き抜けることなくバランスを保った上で、土台となるご飯がその3者を実はしっかり仕切っている。関西での標準的な天丼とは、口数手数が違うって感じでしょうかね。
天丼だけでなく、建物などを含んだその東京っぽい風情も想像以上に素晴らしく、本当に来て良かったと思いました。その一方、一度こんなの食べるとクセになってしまうけど、関西でこういう天丼って食べられるんでしょうか。うーん、困ったことです。今度はいつ土手の伊勢屋に来ることが出来るんだろうかなあ。

冨永さんは天丼讃の中で、「私が食いたいと念じているのは天丼ではない。実は誠実なのだ。」と書かれました。それをもじって感想を書くなら…
「私が土手の伊勢屋で食いたいと念じているのは天丼ではない。実はかつての東京という風情なのだ。」ってとこでしょうか。
…先生スミマセン、出来が悪くて。


{お店データ}
住所:東京都台東区日本堤1-9-2電話:03-3872-4886
営業時間:11時半〜L.O.14時、17時〜L.O.20時 ※売切次第閉店 定休日:水

Comments

keit2008/11/03 09:25 PM

3年前の撃沈のエントリを拝見してましたので、今回の東京行きは伊勢屋リベンジを決行されるのでは…と思っていたのですが、やはり訪問されたのですね
念願の伊勢屋訪問おめでとうございます(^o^)

私は前回訪問時は、昼食抜きで夜の開店直後に飛び込みました(^^ゞ
空腹の極限で食べるここの天丼はホントに正気をなくすほどのおいしさで、食べ終わった後に夢を見ていたような気分になったことを強く覚えています

私もこのお店は味はもちろんのこと、佇まいや店内の年期など大のお気に入りのお店です
ishさんと同じく、今度はいつこのお店を訪問できるんだろうな…と常々思っています
混雑してるから時間に余裕がないと行けないし、三ノ輪近辺って都心から近くて遠いんですよね

ish2008/11/03 09:48 PM

keitさん>
撃沈のことを記憶していただいているとは、すごいですね。
ほんとに念願叶ったって感じです。
こういうガツンとくる天丼って関西ではまずお目にかからないでしょうけど、ほんとにおいしいですよね(好みによるだろうけど)。時間をかけて食べる代物ではないだけに店内滞在時間は短かったのが残念。もっとゆっくりあの店の風情に浸っていたかったなあと思います。
「天丼讃」、keitさんなら絶対気に入る文章だと思うんだけどなあ。ここでご紹介できないのが残念です。

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